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ジャズドラマー福盛進也、終始“美”を感じさせた日本ツアー最終

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 ジャズドラマーの福盛進也が8日、東京・渋谷のホール「ラトリエ」で、日本ツアー『Shinya Fukumori Trio 『For 2 Akis』Japan Tour 2018』の最終公演をおこなった。福盛はドイツ・ミュンヘンを拠点にヨーロッパ各地で活動する34歳。2月には、世界的ジャズレーベルのECMからアルバム『For 2 Akis』もリリース。ECMから日本人ジャズ・アーティストの作品がリリースされるのは、ピアニストの故・菊地雅章以来2人目となる。今回の来日ツアーのコンセプトは、「美しい和の旋律と、欧の音に対するアプローチの融合」というユニークなもので、この日の6日間続いた公演の最終日だった。満員の観客を前にMC少な目ながら、福盛は自作曲に美空ひばりや宮沢賢治、ソウル・フラワー・ユニオンなどの曲を混ぜたセットリストで音楽を純粋に味わえるパフォーマンス。3人の美しい音色が混ざり合って出来上がるサウンド、それもまた「美」でしかなかった。【取材=小池直也】

 開演時間の午後6時。福盛に続いて、同じくミュンヘンから来日したマテュー・ボルデナーヴ(テナーサックス)、ウォルター・ラング(ピアノ)が姿を見せた。拍手の出迎えに3人は笑みを浮かべる和やかな様子。

 福盛はメンバーを紹介してから少しだけMC。「今日が最終日ということで、沢山の方に集まって頂いて感激です。今日は極力MCをせずに、音楽だけを楽しんでいって頂きたいと思います。ゆっくりしていってください」。

 1曲目は「Silent Chaos」。福盛がブラシでスネアを中心にこすり始め、演奏がスタート。ビートではないもののリズミカルだ。続いて素朴な和音でピアノが入り込んできた。会話をする様にドラムとコミュニケーションをとる。しばらくしてから、祈るように静まっていたマテューが消え入りそうな美しい音で、ピアノの音上を朗々と。福盛はその横で、いわゆるビートではなく、空間に音で色を塗っていく様なドラミングを見せた。最後はサキソフォンとピアノの低音の余韻でエンディング。

 宮沢賢治が作詞作曲した「星めぐりの歌」では、等間隔で刻むピアノと浮遊感のあるドラムに続いて、優しいメロディが繰り返される。3人が紡ぐ音の質感がただただ美しかった。ここでもまるでコードが鳴らされているかの様な、スペースに敷き詰めるドラムの福盛。時にリズムで、時に強いアクセントで、シンバルの余韻で。

 「The Light Suite」では、演奏を吹き上げるサキソフォンがドラマティックに盛り上げる場面も。しかし決して感情を爆発させ過ぎず、クールに踏み留まっていた印象。だが突然、福盛がシンバルレガートで疾走。それに伴いサックスも手数も多くなり、演奏が熱を帯びた。そこから柔軟な4ビートを提示してドラマティックな展開へ。スリルある演奏に、オーディエンスからは興奮の声も挙がる。

 牧歌的なピアノイントロから、柔らかいサキソフォンの高音域から始まるテーマが繰り返されたのは、美空ひばりが歌っている事でも有名な「愛燦燦(あいさんさん)」。小さな火が段々と燃え上がる様に福盛の演奏が躍動していく。ふっと静寂が訪れ、もう一度テーマが淡々と現れて演奏が終わった。

 アルバムの表題曲でもある「For 2 Akis」は、サックスの独奏から。低音域から高音域まで霞がかかった様な音色で雰囲気を作り上げていく。ピアノとドラムが合流してからも、サキソフォンが主導して演奏を切り開いていった。続く、遠藤賢司の「カレーライス」では、3拍子のノスタルジックな演奏が展開される。終盤は倍速のフレーズに楽曲が変化し、熱量を上げていった。演奏後、福盛が「遠藤さんが今年亡くなられました。僕も尊敬していたので追悼の意を込めて。もともとレパートリーに入れていたので、今回のツアーでもう一度やらせて頂きました」と想いを明かした。

 今回のセットリストは日本産の楽曲以外は全て福盛の作曲によるもの。今回のライブでは彼の作曲家としての手腕も堪能できた。本編最後も彼のペンによる「Spectacular」。そよ風の様なサキソフォンが川の流れの様なリズム隊に流れこんでくる。中盤ではピアノの余韻を残しながらドラムの独奏へ。ブラシで強弱や緩急をうまく組み合わせたソロを展開。ピアノが復帰すると、マテューがテーマに続いてソロ。低音を導入部に使ってメロディアスに。ピアノソロは和音を力強く鳴らす様にシンプル。最後はもう一度メロディに戻った。

 演奏が終わると、福盛がメンバーを紹介し、3人揃って頭を下げた。他メンバー2人が福盛よりも頭1つ分身長が高い事が初めてわかった。そして退場すると、オーディエンスからはアンコール。

 それに応える福盛。アンコールは「満月の夕」。本編もそうだったが、日本的なメロディをサキソフォンで吹くと、どこか歌謡曲っぽくなりがちだが、そうならないのが改めて新鮮に感じられる。アンコールとあってか、3者が自由なプレイを聴かせ、リラックスした様子も見られた。

 3人は再び頭を下げ退場。福盛の日本ツアー最終日は終わりを迎えた。世界へ旅立った34歳がこれからどんな活躍を見せてくれるのか、期待して見届けていきたい。


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